コラム「友情と尊敬」

第184回「『流行ってますよ』のその前に」 藤島 大

あれ。逆効果だと思うけどなあ。たまに服を買いに街へ出る。フロアのスタッフが近寄ってきてささやく。「それ、流行ってますよ」。たちまち購入意欲は失せる。

居酒屋と服飾店は店員の愛嬌および誠実が命だ。いつだったかアウトドアのショップでシャツを選んでいると、こんどは優れた従業員の一言に心をつかまれた。

「お客さん、おしゃれが好きですね」

おしゃれじゃなくても悪い気はしない。これが「お客さん、おしゃれですね」ではよくない。初対面の人に値踏みされたような感じがする。

ここからの本題は「流行ってますよ」だ。

いま、ラグビー界に「背走しつつキャッチ」が広がっている。おもに9番がラックより蹴り上げるパントを11番なら11番が戻りながら捕球する。

かつては、後方に構える人間、たとえば15番が前へ出てジャンプするのが主流だった。ところが最近は、攻守の分析やスキルの開発が進み、追う側の選手は片側の腕を遠く高く伸ばして自陣方向にはたくようになった。あくまでもキャッチをめざす防御は不利だ。

加えて、競技ルールの適用が動き、いわゆる「エスコート=戻りつつ追う側の走路をふさぐ」に厳しく笛は鳴る。かくして、前でキャッチよりも、帰陣しながら、一刻も早くボールにさわるべき、という傾向は強くなった。

さて。あなたはどうするか。
 国内外のファーストクラスの代表やクラブが「背走しつつ」を採用すれば、追随したいのは人情だ。仮に高校生が海外の映像を見て、俺たちは、わたしたちは、これだ、と思ったら、それはそれで尊い。

しかし。本コラムの仮説ではあるが、日本列島の大多数の高校や大学や社会人、あるいは草の根クラブには「後方の人間が前を向いてジャンプ」のほうが確実ではあるまいか。攻守のふたりが同様の上体の向きで競り合うと、どうしても長身に有利な気がしてならない。

わがチームのWTBやFBの身長、跳躍とキャッチの能力はどうなのかを考える。当然、キックの精度との兼ね合いもある。「流行ってますよ」。その前に「自分たちは何者なのか」を見つめなくてはならない。

「ラグビーに基本はない。自分たちの戦法に合った基本がある」(大西鐵之祐) 
 何度か直接聞いた言葉の鋭さをあらためて思う。

フランスがこうしているから。と、もしジャパンが深く考えずに模倣したら負ける。ジャパンはこうだから。と、もしJR東日本グリーンウォリアーズ東葛が実証を飛ばして採用するとこれも敗れる。高校で同格の相手の攻防理論を拝借するのも危険だ。成績は似ていても人と環境はそれぞれ異なる。

数年前に高校の現場で目にした光景をヒントにひとつの例を挙げる。
 男子のチームに身長185㎝、中学時代はサッカーの優れたゴールキーパーであったFWがいるとしよう。長い腕に鋭い初速、9番や10番のキッカーへのチャージがいかにも得意そうだ。しかし、決めごとでは、蹴られたあとの後方のキャッチもしくは支援に回る。

ここで思考開始。
 ぶつかるチームとは互角かこちらがやや優勢の力関係なら「キャッチ役」でよい。カウンター攻撃で彼がランすればトライにつながるかもしれない。
 だが、花園行きをかけた地区決勝、体格や経験における格上に挑むなら「チャージ役」を託したほうがよい。接戦の敵陣。準決勝までは違う任務のエースがいきなり怪鳥のごとく圧力をかけて、てのひらで楕円球をとらえ、そいつを拾ってインゴールへ。その場合にのみ勝つ。

すべては「自分たちは何者なのか」が起点だ。次に明確な「目標」と「仮想敵」を定める。突き詰めれば「簡単にまねをせず」に行き着く。美学や矜持ではなく、どこまでも必勝のための必然である。

おしまいに。もし、自分が南アフリカ代表スプリングボクスのコーチで強者の独自性に踏み込むなら。PKから正面のHポールめがけ、ちょうどバーに落ちるように宙を長く舞うハイパントを上げる。チェスリン・コルビ(171㎝・77kg。速くて跳べる)とジェシー・クリエル(186㎝・98kg。強くて速い)とエベン・エツベス(203㎝・120kg。腕が太もも)とクワッガ・スミス(180㎝・99kg。速くて地を這い腕がほぼ太もも)が横一線でチェイス。きっといいことが起きる。
   

■ 筆者「藤島大」の略歴■
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。曼荼羅クラブでもプレー。ポジションはFB。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)など。ラグビーマガジン。週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球に見る夢』放送中。

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