コラム「友情と尊敬」

第51回「筋道と対応」 藤島 大

その昔、花園の高校大会に超大型チームが出現すると、こういう言い回しが記者席に飛び交った。

「早稲田よりは大きい」

でも「明治より大きい」ことはなかった。まだ早稲田大学のメンバーに花園出場経験者の少なかった時代の話だ。

本年度の高校日本一、東海大仰星のフォワードの平均体重は、なんでも関東学院大学より重かったらしい。なんと公称99㎏。おかしい。いや、おかしなくらい見事な体格と運動能力、それに中学までの豊かな経験を有する者が集った。大会前からの大本命だった。

では素質とサイズ頼みの優勝だったか。違う。そこには優れたコーチングがあった。

東福岡との決勝、かの才気あふれる九州の雄との勝敗を分けたのは、ひとつずつ芯の通ったスクラム、ラック、タックル、そして球を動かすにあたっての原理原則の浸透にあった。ゲーム理解に優れ、相手の研究を怠らず、大きな体を最後まで稼動させるフィットネスも備わり、そして、なによりも「仰星のラグビー」があった。

ひとつの例は、スタンドオフの山中亮平の球を受ける角度だ。フラットに近いところまで前へ出て、その線上に相手防御のプレッシャーを止め、そこから自在のパスで好機をつくる。長身でスキルフル、これだけの才能に恵まれると、その才能を確実に発揮するため、つい深く安全圏に身を置きたくなるのだが、圧力と接触をおそれない。強力なフォワードから潤沢に球を供給される立場にありながら、絶対に「なんとなく」はプレーしなかった。

チームとしての球の動かし方にも、練り上げられた「道筋」はあった。明確に、土井崇司監督の指導哲学の成果だと思う。

東福岡は、この言葉が正確か自信はないけれど、いわゆる「リアクション・ラグビー」の印象が強い。少年時代から経験を積んだ運動能力の高い選手が、硬直した慣習から解放され、いきいきと「相手のしてくること」に対応して、そこからチャンスをつかむ。

相手が展開重視であれば、中盤でもラインアウトを競らずに、タックル自慢の第3列があらかじめ外目に開いて、出させた球へ猛然と襲いかかる。もしモールを押してきたら、その場合にも十分に耐えられる重さと技術は持っている。重いスクラムも押すことに執着するのではなく相手の攻撃の角度を制限するようにコントロールする。研究→対応→反攻→対応→大勝→研究のサイクルは決勝の前まで乱れなかった。

固定された「東福岡のラグビー」を貫くというより、そのつど最も効果的な試合運びを選んでリズムをつくる。ターンオーバーからの速攻の反応の見事さ。深さの保たれた分厚いサポート。どこからでも穴に入り込み、裏へ出る。多角的攻撃力は、ほとんど観客をあきれさせるほどだった。見事なフットボーラー、ナンバー8有田隆平の激しくも巧みなプレーは、クボタの元ワラビー、トウタイ・ケフを連想させた。大学進学後のフッカー転向もささやかれるがフォワード第3列を続けるべきだ。フランカー布巻良太のタックル能力も群を抜いていた。

筋道と反復を重視した才能集団と対応と反応を突き詰めた才能集団の対決には見応えがあった。
ただし、終了直前、東海大仰星が足首骨折の選手を交代出場させた判断は、あらゆる観点からも間違っている。もし、東福岡の選手が、その負傷者のところへ走らなくてはならなかったらどうするか。自分なら、と想像すると、たぶん立ち止まって球を芝に置いた。あるいは真横に蹴り出すか。敬意を払うべき対戦相手が本気を出せない状況をわざわざつくるのは、つまり青春の貴重な時間を奪うことだ。ある小学生ラグビーの指導者に言われた。「あれは試合に出ることだけが最大の価値なのだと子供たちに思わせた。そこが残念です。」

最後に、あらためて書き残したい。
大阪第二地区決勝。東海大仰星に5―19(前半は0-7)で敗れた大阪朝鮮の力と知恵を尊敬します。全校で男子生徒はわずか250人、中学ラグビーの経験者も最近までは皆無だった。その限られた条件でここまで戦える。さらに福岡県決勝、東福岡に15―25(後半は10-3!)と迫った筑紫の奮闘もまた。公立校でもこれだけできる。全国の多くのチーム、いや花園上位進出校にとっても参考になるはずだ。「大阪朝鮮、最強チームに食い下がる」のビデオ映像は、すでにコピーにコピーを重ねられ列島に散らばった。そういう噂を花園のスタンド下通路で耳にした。

■ 筆者「藤島大」の略歴■
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。曼荼羅クラブでもプレー。ポジションはFB。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)など。ラグビーマガジン。週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球に見る夢』放送中。

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