コラム「友情と尊敬」

第71回「まず喜ぶ」 藤島 大

ジャパン、米国代表イーグルスに連勝。同格から上とのテストマッチでは勝利こそが尊い。

いちばん感じたのは、トップリーグの成果が反映された喜びだ。

ひとつは、コンタクトとセットプレーの強さと技術。これはリーグの連戦における切磋琢磨によって培われた日本ラグビーの実力だ。東芝がモール&ラックで一頭抜ければ、他のチームも負けじとその領域を鍛え磨く。サントリーがスクラムで突き抜けたら、好敵手はこれまでよりも厳しく組み込んだり考えたり布陣を組み替えたりして追いすがる。

もうひとつ「試験的実施ルール(ELV)」への対応。すでにトップリーグでの試行錯誤を経て、具体的には、ノータッチの応酬の質と反応でイーグルスを大きく上回れた。

つまり国内に進歩のための努力を続けるリーグを有していることで相手国に対して優位に立てた。正しい過程だ。

ウェブ、ニコラス、ロビンスがSOと両CTBに並ぶと、そこだけはスコットランドくらいのレベルには達していそうで、ホームに迎えたイーグルスなら凌駕できた。筆者の耳にも善良なるファンの「せめて10番は日本の選手で」という声は聞こえた。それはそれでまた素直な実感として無視してはならない。ただ現実に3人が頼もしかったのも事実だ。

そして、平島ー青木ー畠山の若手フロントローについては、はっきりと収穫だった。しっかり組めたし、なにより走れる。フランカーの菊谷主将もいきいきとしていた。

白状すると、筆者は、観戦記を書いたり、Jスポーツの解説をするに際して、ジャパンとオールブラックスについては素直にその時点の力を評価できない。ついつい懐疑的になるのだ。

ワールドカップ(W杯)での「刷り込み」のせいである。

ジャパンにもW杯本番を除けば、それなりに好成績の過去もあった。99年大会前が典型だ。その年のパシフィックリム選手権では、5、6人の強力外国人を加えて、まっこう勝負のラグビーで臨み、カナダ、トンガ、サモアを破り優勝。前年秋にはアルゼンチンも退けた。

でもW杯では、4ヵ月強前に37-34で勝ったサモアに9-43の完敗を喫した。95年大会も「タテ・タテ・ヨコ」の一般的スタイルが本大会では通用しなかった。

そのうち、スポーツ観戦の楽しみが「一喜一憂」にあるのは自分でもわかっているはずなのに、本番は甘くないという刷り込みによって、一喜しかけたところですぐ憂えるようになってしまった。

もうひとつ、91年W杯で、当時は大会屈指の強豪だったスコットランドに敵地で9-47と数字の上では完敗しながら、記者席でちっとも恥ずかしくなかった記憶もからんでくる。ジャパン独自の素早い攻撃と防御が観客をひきつけた。スコアほどの差を感じさせなかった。現地の評価も温かく、実際、ボールの獲れたジンバブエ戦では、ワラビーズもオールブラックスも含めた大会最多トライ(52-8)で快勝できた。

これらの経験から、どうしても一般的なスタイルと強化策の先には、W杯での格上からの勝利、もしくは敗れても関心を抱かれ一定の評価を受けること、そのいずれもが存在しないという確信に至った。極端なまでの「独自性」こそ先にありきではないか。独自性とは最後にまぶすのでなしに最初からの土台であり、W杯前の数年は極度の「速さ・早さ」に打って出るべきではないか…。かくして目の前で勝っているのに疑ってしまう。

オールブラックスもまさにそうで、存分の実力と充実を知りながらも、またW杯の準決勝あたりでしくじるのでは…と疑心暗鬼のクセがついた。個人的には、ニュージーランドのラグビーに根ざす「あくなき勝利追求の姿勢」と「理屈を超えた精神性(スピリット)」は随一だと考える。他の強豪国と一味違うのだ。それが、なぜW杯には負けてしまうのか。ほとんど研究テーマのようになってきて、そうすると、ここが不安、ここがあやうい、と際限がなくなる。ワラビーズやスプリングボクスのことなら「いま強ければ、それでよし」と思えるのに。

話がそれた。ジャパンは、JK体制で次回W杯にのぞむ。すなわち日本ラグビーの規範における「極端な素早さ」までは望めない。そのかわり、世界の顔が世界の情報を得ながら真ん中の道を歩み、日本選手のそもそも身につけている自然な俊敏さで「速さ・早さ」を表現するのだろう。現実にその道筋にあっては力をつけてきている。

最後に。イーグルス最終戦の試合前の演出、きっと賛否は割れたはずである。はっきりしたのは初戦に勝ったら冷える土曜の夜にも観客の足が伸びた事実。代表は勝利こそが最大の広報にしてイベントなのだ。7人制、女子代表ともども、選択と集中にかけるなら「強化費」ではないか。

■ 筆者「藤島大」の略歴■
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。曼荼羅クラブでもプレー。ポジションはFB。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)など。ラグビーマガジン。週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球に見る夢』放送中。

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