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第50回「ただの敗者でなく」藤島 大

香川県立坂出工業高校の背番号6、まだ2年生、鈴木将史の開始いきなりの突進にしびれた。ただ威勢がよいのでなく、体に粘着力があって、それは本物のブレイクとランだった。

でもチームは、三重県立四日市農業高校に5−125で敗れた。

同じく四国の愛媛県立三島高校のナンバー8の矢野弘規の鉄の背中には、こんなに若くして責任と使命が深く刻まれていた。右ウイング三宅公平のスペースを裂き、そのスペースへもぐりこむようなランも見事だった。

でもチームは、岐阜県立関商工高校に10ー27で敗れた。

鹿児島県立甲南高校のナンバー8内村拓の表情を一言で表すなら「キャプテン」である。あの顔をキャプテンと呼ぶ。決して大きくない体で、いつだって真っ向勝負、粘って、粘って、最後は球をいかす。かっこよかったぞ。一生、ラグビーから離れないでおくれ。

チームは、東京の東京高校に0ー27で敗れたのだけれど。

青森県立青森北高校の右ウイング藤田翔は大会初日のセンセーションだった。Jスポーツの中継のための控室で、そこにいる全員が「青森北の14番へ回せ」と叫ぶか、つぶやくか、そうでなくとも胸中に思った。だって、そうなると楽しいのだもの。

チームは、兵庫の報徳学園と12−12と引き分けて、どうにかならないのか、あの抽選という旧態の方式で2回戦へ進めなかった。

高校ラグビーについては「花園」が始まる前か、終わった後に触れるべきと考えたが、初日、2日と観戦して、たまらず敗れ去りし勇者を書き残したくなった。

敗者は語られない。いや語られても忘れられる。それは勝負の定めだけれど、忘れられるまでは語りたい。

慶応大学(K)は、結果として大学選手権2回戦に沈んだ。つまり正月を待たずに敗れ去った。惜しい。いわゆる「いいチーム」だった。理を追った意図があって、理を超越する熱もあった。古き好敵手、早稲田大学(W)との「学習の応酬」には、考える競技としてのラグビーの美徳が浮かんだ。

夏合宿で、Kのスクラムに苦しんだWはさっそく学習、結束重視の再構築を果たして、11月23日には圧倒した。1ヶ月後の大学選手権での再戦、Kは完敗のスクラムとラインアウトをかなりの程度修正する。ふたつの対戦を通して、Wの中心たる矢富勇毅を自由に動かさぬ防御は、これまでのどのチームより徹底していた。Wもまた前回対戦では不完全燃焼の外側のアタックをきっちり整備した。Kの切り札、山田章仁への対策もしっかり練り上げ、こんどは自在に走らせなかった。Wは、つまり敗者であるKによっても鍛えられたのである。なかなか勝ち切れないころのWもそうだったが、負けたシーズンにも全力を尽くし、選手層を言い訳にしないで考え抜くことをやめず、いささかの感慨を残せるチームは、時を得れば必ず頂点へ近づける。

法政大学、東海大学、流通経済大学、福岡大学…どこも、ただ負けたのではない。語られるべき攻防はそこにあった。

明治大学はいかにも成長途上だったが、ともかく「原点回帰」の意志だけは明確だった。すると周囲は、ややフライング気味に「復活」を期待した。いかに「まっすぐ前へ」のスタイルを待ち望むファンの多いことか。どーんと長いキックを蹴り込んで大きなフォワードを敵陣深くへ進めるバックスの登場を待ちたい。

帝京大学は、慶応のキャプテンに「早稲田より接点は強かった」(早慶戦後)と言わせた実力を擁しながら、またも失速した。どこが間違っているのか。それこそ選手の資質や環境に敗因を求めず、ピーキングを含めた具体的な指導内容を検証すべきなのだろう。

そして、これも書いておきたい。帝京大学の岡田正平主将の素直で胸に誇りを秘めたリーダーシップは敗れて敗れていない。会見でも、いつも感じがよかった。僅差で勝てた慶応戦、チームで最後まで続けた鋭いタックルは、ほとんどキャプテンの人格そのもののようだった。

■筆者「藤島大」の略歴■スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。曼荼羅クラブでもプレー。ポジションはFB。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。著書に『ラグビー特別便』(スキージャーナル)、『ラグビーの世紀』(洋泉社)、『知と熱』『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『スポーツ発熱地図』(ポプラ社)、『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン)、『キャンパスの匂い』(論創社)など。東京新聞(中日新聞)火曜夕刊にコラム連載中。
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