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第9回「自由への招待」 藤島 大

 春は新入部員の季節である。
 高校1年、スパイクと純白のジャージィを買って、やがて人生の友となる同級生と、おそるおそる楕円の球を投げ合った午後、あの妙に生温い風が思い浮かぶ。

 ラグビー部の門を叩いてよかった。
 つくづく自分の決断と直感に感謝したくなる。このスポーツは深く、重く、ちょっぴり痛く、どこまでもまとわりつく。もちろん、それが楽しいのである。

 2003年、ラグビーの宇宙へ細い足を踏み入れた新人たちに、本コラムの場を借りて、声をかけさせてほしい。

 「おめでとう。あなたは幸運だ」

 以下、ラグビー・フットボールにまつわる幾つかの言葉を記して、いつか膝小僧を擦りむき、耳たぶをタックルでカリフラワーとしたスポーツライターからの私的な招待状に代えたい。

 フランスの伝説的ラグビー記者、ドゥニ・ラランヌは書いている。
「人類には、ふたつの種がある。ラグビー人、そうでない人」

 この名文家はこんな文章も残している。
「ラグビーは人間の内側にある最高のものを最後の最後まで追い求める」
 かつてのフランス代表監督、ジャック・フルーは述べた。
「最も魅力的で、最も背が高く、最も速く走れ、最高に頭の切れる人間が、素質にはさして恵まれないが、強固な意志と協調性でポジションを得た者を必要とする。ラグビーの教育的効果は集団のために個人の利益を捨て去るところにある」
 最後のくだり、世界に冠たる個人主義の国の、しかも、きわめて個性的な名物男が語るから迫力がある。

 やはりフランス代表の名フランカー、現在は芸術家としても活躍するジャン・ピエール・リーブは、日本のテレビコマーシャルにおいて、いまや、あちこちで引用される有名なコメントを残した。
「ラグビーは少年をいちはやく男にして、男に永遠の少年の魂を抱かせる」 

 小柄ながら金髪を振り乱す猛タックルで知られたリーブはこうも語った。
「ラグビーにおける最優先かつ最重要な要素、それは精神のあり方、魂」

 これまたフランス、1950年代の名SH、ピエール・ダノの発言。
「ラグビー選手とはピアノ運搬業かピアノ調律師のどちらかだ。わたしはピアノを弾けたけれど」
 さぞかし、うまかったのだろう。

 19世紀、イングランド。発言者不詳。ラグビーとは。
「紳士によって楽しまれる悪漢のゲーム」

 オールブラックスの怪物WTB、ジョナ・ロムー。
「ラックの下敷きになる。相手がスパイクで踏みつけてくる。それでも笑顔でポジションに戻る。そのためには精神的な訓練とコントロールが必要なのです。ラグビーによって、人生は規律と鍛錬だと学びました」

 巨漢ロムー、日本の若き選手へのメッセージ。97年、来日時。
「ともかくラグビーを好きになること。プレーを続けること。体のサイズは関係ありません。小さくてもタフでやっかいなプレーヤーはたくさんいます」 

 ある早稲田大学ラグビー部員。
「ラグビーとは性格のスポーツです」
 それぞれの個性にふさわしい場所は必ず用意されており、粘り、強気、ひたむき、楽天性、もしかしたら臆病さ、さまざまな個性の組み合わせが勝負を決する。

 魂、協調性、規律、鍛錬。あるいは息苦しく感じるかもしれない。
 しかしラグビーの奥には絶対の自由が横たわる。
 どうしても勝ちたい。骨身を削って練習に浸り、ついに勝った。その歓喜と自由。
 それでも勝てなかった。あまりに相手が見事だった。これも自由。

 言い訳や「ずる」の横行する世界に本物の自由はありえない。それは「権力」や「特権」に過ぎない。エクスキューズ無用の真剣勝負。高い目標に向かって仲間と邁進、さまざまな軋轢を乗り越える過程にこそ、純粋な精神の営みはありうる。

 そうでなくて、たった学生時分の数年間に球を追っただけで、一生、ラグビーとともに生きるような人類が、かくも惑星に存在するはずはない。
 ラグビーは自由だ。そして、あなたは幸運なのだ。

■筆者「藤島大」の略歴■スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。曼荼羅クラブでもプレー。ポジションはFB。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。著書に『ラグビー特別便』(スキージャーナル)、『ラグビーの世紀』(洋泉社)、『知と熱』『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『スポーツ発熱地図』(ポプラ社)、『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン)、『キャンパスの匂い』(論創社)など。東京新聞(中日新聞)火曜夕刊にコラム連載中。
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