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第136回「冷たくなかった北風」 藤島 大

  世に出てしまったので照れても仕方がない。初めて小説を書いた。『北風』。集英社文庫から先日発売された。おおざっぱに1970年代のおしまいから1980年代なかば過ぎまで、そんな時代の早稲田大学ラグビー部の青春の一幕をワープロで再現した。加えて、1990年代後半からの5年ほど筆者が同大学のコーチをしたころの出来事も含まれる。スズキスポーツもちょっとだけ登場します。

  当時の早稲田のラグビー部は、まあ強豪のひとつで、なのに選手の出身校は、地味というか、全国大会級は少数、列島の「普通の高校生」にも手の届く感じがした。入学に際して「スポーツ実績での推薦」は存在しなかった。反対から考えると試験さえくぐり抜けたら、平凡な実績の選手にも「日本一」をめざす集団の門戸は開かれた。

  誰の入部も拒まず、入部審査や強制退部もなく、でも、普段の練習をしているだけでどんどんやめた。原則として誰かの力を借りて入学していないので、あすからくるのはよそう、そう思ったらそうすればよかった。親の影はどこにもなかった。

  異様な世界だった。正確には、まともで異常で平和的で闘争的で優しくて激しすぎる小社会。暴力や後輩を私用に命ずるような文化は皆無。それでいてグラウンドをピリピリとした緊張が支配した。正直、のびのびはしていない。1年生部員が萎縮と無縁と述べるとウソになる。でも、いったんグラウンドを離れると自由性はあった。寮の食事当番や公共部分の清掃は学年の上下と無関係、キャプテンも平等にこなした。私生活に干渉する者はいなかった。

  新入生の立場からとらえるなら、根源的にまともで、おもしろい先輩たちがたくさんいて、まともでないというか、過剰というのか、おもしろくはない猛練習をみずから続け、グラウンドのすべての音に耳をすますような集中力を後輩に求めた。いい人がこわかった。

  仮に1982年の早稲田のある午後だけを切り取る。これでもかと走って、走れぬ者は冷たくされて、置き去りにもされ、罰の鍛錬を強いられ、スクラムになれば頭と頭をヒトの健康を度外視して露骨にぶつけ合う。長時間の反復。新人はグラウンド庭園のごとくを整え清め、ボールを上等の蜂蜜色になるまで磨く。通りすがりの識者が見たら「常軌を逸している。これはスポーツの範疇にない」とあきれるだろう。

  しかし、その場にひしめく人間が、ほかの言葉が見つからないので前出の表現を繰り返すと、根源的にまともであれば、ひどいことにはならない。断言できる。筆者がたまたま早稲田に在籍したから、そこにおける「まともで、まともでなくて、まとも」を記しただけで、ここは、異なる大学、高校、さまざまなチームにおいても同じだ。

  一見して、旧式の単調そうな練習ばかりしていても、率いるリーダーが、監督やコーチが、まともなら、まともでない人間が仕切る表面はまともなトレーニングよりも、若者を伸ばす。いつかも取り上げた「ラグビースクールでのオーバー問題」と重なる。勝利の感動のために子どもにラックを乗り越える方法を厳しく教える。かたや創造性を伸ばすのだと勝利への執着を否定する。一見、後者が正しい。しかし、前者を本当によい指導者が導けば、そうでもないコーチの唱える理想より現実に人間は育つ。

  属人というのか、ある個性の存在によって、若者の長い射程での幸福が約束される。それでは再現可能なシステムにならないから、どのチームに在籍してもひどいことにならないためのルールやノウハウも必要だろう。ただし、あなたがもし、いま監督やコーチをしている、主力として部員を束ねているなら、まずは「まとも」であり続けるしかない。運動部、クラブという視点なら、いまそこにいる学生、部員のために「聡明で公正で慈悲深く妥協しない」指導者だけをグラウンドに近づける。できる範囲で人選にベストを尽くす。未来の「よき伝統」のための近道である。コーチは「なりたい人」より「なってほしい人」だ。『北風』の昔もそうだった。だから厳しいのに冷たくはなかった。

■筆者「藤島大」の略歴■スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。曼荼羅クラブでもプレー。ポジションはFB。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。著書に『ラグビー特別便』(スキージャーナル)、『ラグビーの世紀』(洋泉社)、『知と熱』『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『スポーツ発熱地図』(ポプラ社)、『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン)、『キャンパスの匂い』(論創社)など。東京新聞(中日新聞)火曜夕刊にコラム連載中。
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